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執筆者の写真yamashina shigeru

夢の正体

はんこ道



ど真ん中名刺の打ち合わせで、大阪新世界にある現代の名工の手彫り印鑑、澤村萬壽堂にお伺いした。


職人の手彫り印鑑を依頼にくるお客様とはどんな人か?


人生の中で、手彫り印鑑を作るタイミングは何回あるだろう。

生涯で一度も作ることはない人も数多くいるだろう。

作るとして、多くても2回ぐらいなのではないか。


しかも、どのタイミングも、人生の転機、覚悟、決意、大きな一歩を踏み出そうとする瞬間になるだろう。

つまり、手彫り印鑑を注文にくるお客様は、すでに、人生の大きな決断をしている人だということだ。


そのとき、店員に必要なスキルは何か?


もちろん、印鑑の知識は必要だ。

しかし、それ以上に必要なのは人間力になるのではないか。


大きな決断を迷っている人ではなく、すでに決断を下した人にとって、次は自分が決断を下した道に共感してくれる人、そして応援してくれる人を求めているはずだ。

そのときの判断基準は、知識の多さよりも、「この人ならお任せしたい」と自然と思えるような人間力を持ち合わせた人物であるかどうか、になるのではないか。


では人間力とは?


人間の価値=天職への熱心な度×心のきれいな度 永海佐一郎博士

まさにこれなのではないか。

知識量や経験以上のもの。

どれほど、自分の仕事に熱心であるか、そして思いやりのある心をもっているか。



そして、次にお店に必要なスキルは、本業である圧倒的な印鑑の手彫りスキルになるだろう。

印鑑の完成品が、人の心を感動させるほどの美しさ。


この2つを兼ね備えているのが、澤村萬壽堂だ。


お客様が仕上がった印鑑を取りにきたときのエピソードを教えてくれた。


「この判子のために、家を新築したい」


「資格を取得することを目標として、達成できたから印鑑を作ったのだが、この完成品を見たら、資格合格もゴールではない、ここから仕事に集中してもうひとつ大きな夢を実現させたいと思えました」


「今回は諸事情があり予算がなかったけど、必ず仕事を成功させて、次回もう一度、象牙の印鑑を注文したいと思っている。印鑑を見て力をいただいた。それまでしばらくお待ちください!」


「次の代が家業を後継するとき、もう一度印鑑を作ります。その時もどうぞよろしくお願いします」


そういったエピソードだ。

仕上がりの印鑑の圧倒的な美しさに、心が動かされる。

自分でも思ってもみなかった新しい夢や志を抱くことになる。


特に最後の2つのエピソードは、しびれる!

つまり、お客様と交わした約束を守るためには、事業を継承していかなければならない。

お客様がいて、お店があって、お互いの夢を応援しあえる関係を生み出す、しびれる仕事だ。

 

最初、すばらしい作品を見せていただいたときは、アーティストの作品だと思った。


印鑑は、文化として残るか、実用品として残るかー。


これは大きなテーマだ。

日本の多くの伝統産業もこの選択で悩むことになる。

 

当初、アーティスト作品だと思ってはいたが、お客様のエピソードを聞いていると、印鑑の仕事は、決してアーティスト作品ではないことが分かった。


お客様ありきの仕事であり、そのお客様の予測をどれほど超えたものを作れるかどうか。

職人として、プロとしての力のみせどころだ。

その仕事は、一見アーティストがこだわりぬいた作品のように思えるが、そうではなく、ひたすらお客様の心に向き合い、我を捨てた仕事だ。


日本刀の職人のエピソードを思い出した。

日本刀を美術品のように美しく仕上げる。

それはなぜか?

日本刀は人を殺す道具だ。その道具に美しさは必要ないはず。

職人曰く。

「武士が本当に日本刀を抜かなければならない状況に出会ったとき。刀を抜いた瞬間、刀の美しさに心を奪われる。」

「あ、この美しい刀で人を殺すことはできない…。そう思えるほどの美しさを追求したい」

と。


本物の手彫り印鑑には、同様な力がある。

美と、感動には、人を動かす力がある。


お客様を愛する人間力と圧倒的な職人技

この2つを兼ね備えているのが、澤村萬壽堂だった。

 


この2つは、ど真ん中名刺を作る自分自身にも当てはまる。

ど真ん中名刺を作りたいという方は、印鑑同様、人生の決断をしようとしている人だ。

そして、その人生にどれだけ耳を傾け、本気で名刺を作れるかどうか。

いろんなことを学ばせてくれた打ち合わせだった。


現在85歳の職人には、まだまだ夢がある。

本の出版

個展の開催

だ。

 

ただ、ここでいう「夢」とは、世間で語られる夢と少し趣が使うように感じた。


夢とは、使命の延長線上にある、すでに実現が約束されている計画のひとつでしかない。

これが、本来の夢の正体なのではないか。


つまり、周囲からは、大きな夢のように見えたり、とんでもない夢にように思われるかもしれない。

しかし、実際に夢を実現させようとしている当人にとっては、単に自分の使命にとことん向き合い続けたことで、必然的に起きた計画でしかない。


だから、使命を愚直に追及していけば、必ず実現することは理解している。

大事なのは、自分の命の時間と、ぶれずにやり続けることができるかどうか。

そして人のご縁だ。

 

素敵な気づきをいただいた打ち合わせになりました。




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