信用創造
- yamashina shigeru
- 5月13日
- 読了時間: 3分
マネーバイアス
ピーター・カーニック 著
1番目の嘘
銀行は利ざやでたくさん稼いでいる
ある不思議な話があります。
黒海沿岸の、すっかり寂れた小さな町。
人々は借金を抱え、生活は苦しい。
そこへある日、一人の旅人が訪れます。
彼はホテルのカウンターに100ユーロ紙幣を置き、部屋を見に行くと言って2階へ上がっていきます。
すると――
ホテルの主人はその100ユーロを持って肉屋へ借金を返しに走り、
肉屋は養豚業者へ、養豚業者は販売業者へ、
販売業者は町の遊女へ、遊女はホテルに――
そして、100ユーロ紙幣はぐるりと一周して、再びホテルのカウンターに戻ってきます。
ちょうどそのとき、旅人は「気に入る部屋がなかった」と言って100ユーロを持って去っていく。
誰の手にもお金は残らず、旅人も町に何も残さなかった。
けれど――町の誰もが借金を返し終わっていたのです。
登場人物たちは誰も現金を得ていない。
でも、100ユーロが町を一周しただけで、全員の「負債」が消えた。
現金は使われてないのに、信用の移動で関係性(債務債権)が精算された。
つまり、現金より、信用が町を回していた。
100ユーロは町の経済を一瞬で循環させ、人と人の関係性(債権と債務)を解きほぐした。
そしてもう一つ。
「銀行は利ざやで儲けているのか?」という問い。
たとえば、銀行は100ユーロを預かり、2%の利息を預金者に払う。
一方で、その100ユーロを5%で企業に貸し出す。
この場合、5%−2%=3%が銀行の“利ざや”だと単純に考えがちだ。
100×5%=5ユーロ
100×2%=2ユーロ
5ー2=3ユーロ
そうか!銀行って3%(この場合は3ユーロ)を稼いでるんか…ってあってる??
このとき、銀行自身が出したコスト(運用のための経費)は、1ユーロだとする。
3ユーロの利益を1ユーロのコストで得たことになり、実際の利益率は200%になる。
利益率=2ユーロ(利益)/1ユーロ(必要経費)×100%=200%
そう、3%じゃなくて200%!
さらに、もしこの運用費1ユーロで100倍の取引まで、システム上可能なのであれば…。
その利益率は文字どおり“無限大”に近づいていきます。
利益率=299ユーロ(利益)/1ユーロ(必要経費)×100%=29900%
ここでも、銀行が動かしているのは「お金」ではなく、他人の信用。
信用の流れを操作し、管理し、増幅しているのです。
この2つの話を並べてみると、共通点は。
「お金は流通することで初めて意味を持つ」
「本当に価値を動かしているのは、“信用”の流れである」
さらに、この構造は、なにも「お金」だけに限った話ではないのでは?
モノも、サービスも、思いやりや感謝の言葉も、信用を土台にして人から人へと渡っていく。
それが回り回って自分に返ってくる。
それが社会であり、経済であり、人の営みの本質なのかもしれない。
感謝の言葉で元気になる。
それが別の誰かへの優しさに返っていく。
経済では測れないが、連鎖的に社会を豊かにする力がある。
100ユーロがぐるぐる回って町を救ったように、思いやりも、時間も、知恵も、使わなければ腐るけれど、循環すれば、それ自体が「豊かさ」になる。
これが、なぜか「お金のこと」とだけとらえると100ユーロの話も銀行の話も、何か胡散臭いこと、疑念、思考停止して考えてしまう。
ここに一体どんなバイアスが存在しているのだろう。
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