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自分の線

生きるための表現手引き

渡邉康太郎 著

読了

 

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イラストレーター

デザイナー

画家

小説家

ダンサー

モデル


創作活動で生きようとしたとき、自分の活動を名刺の肩書として載せる。

そのとき、きっと思うこと。


「私はこの肩書で大丈夫なのだろうか」

プロかアマチュアかと問われれば、プロではあるが、それだけで生活できているわけではない。

もっと社会的に認知された上で、肩書を名乗るべきではないか。

 


本書の最初に「存在の提案」の話がある。

より積極的に創作するだけが大事なのではなく、「存在」そのものが他者に影響を与え、「いつのまにか」「自ずから」生まれる作品がある。


中動態的な営み。

能動態とも受動態とも異なる、営み。


著者の伝えたいイメージに合っているかどうかはわからないが、ど真ん中名刺をつくる工程には、中動態的な営みがある。


名刺のデザインを完成させるために手を動かしているのはぼくなのだが、ぼくがデザインしているわけではないという感覚。

名刺もそうだし、ロゴマークをつくるときも、チラシをつくるときもそうだ。


瞬間瞬間に頭に浮かぶテーマを歓迎しながら対話を進める。

たまに名刺の話に戻りつつ。

すると、何かの拍子に、パッと道が開ける瞬間が訪れる。


その道を信じて進んでいくと、お互いどちらが決めたのか、いや、どちらかというと、すでにそうなるように決まっていたと感じる表現にたどり着くことがある。

迷いがなくなる瞬間だ。


そこにたどり着けば簡単で、あとは情報整理に専念すればいいだけになる。

そういった過程で完成した名刺は「生まれた」という表現に近い。

なので、ぼくがデザインしたという感覚はほとんど残らない。


だとすると「創作とは何か」という問いに戻ってくることになる。

また、デザイナーという肩書にも肯定的な理由で違和感を覚える。



本書にはいろんな方の言葉が紹介されている。


「オリジナリティとは、聞いたことを覚えていながら、どこで聞いたか忘れてしまう芸当をいう」(カナダの教育者/ローレンス・J・ピーター)


「文学が芸術の世界でも、独創性にこだわる人は決して独創的ではありません。一方、ただ真実を伝えようとすれば、十中八九、気づかぬうちに独創的になっていることでしょう」(イギリスの作家/C.S.ルイス)


「最も個人的なことが最も創造的である」(映画監督/マーティン・スコセッシ)



次に本書では「模倣」について語られている。

あらゆる創作は模倣の失敗である」という仮説について。


たとえば、お気に入りの漫画の主人公のイラストをそのまま模倣する。

そのとき、「自分の身体、自分の経験を映し出す1本の線は、いくら練習しても他者の線にはなり得ない。必ず「自分の線」しか残らない。」


その「自分の線」こそ個性であり、マーティン・スコセッシの言葉を借りるなら、最も創造的な線なのかもしれない。


ここで大事になってくるのは、「自分の身体」「自分の経験」を一歩進めて考えることなんじゃないか。


自分の線となる自分の身体とは。

自分の線となる自分の経験とは。



「身体」

筋トレやマラソン、トライアスロン、ヨガ、サウナ、瞑想で鍛える。

きっと、どれも大切なことなんだろうが、ここでいう身体とは、見た目の身体だけのことではないはずだ。

インナーボディに居座る感覚を大切にすること。


「経験」

旅をする。

他者との対話、コミュニケーションも大きな刺激になる。

しかし、そういった経験だけではなく、すぐそばにある自然に気づいていくこと。

雲の動き、夜空を見上げる。

息遣い。


より自分から遠く離れたところにある価値、拡大や成長ではなく、すぐそばにあること、内側にあるものに気づいていくこと。

そこを見直す大切さを伝えてくれている。


本書では

・何かをマスターしていく過程で、上手になっていくことで失われた何か。

・子どもが不意に発する疑問

・無意識に書きなぐった意味のない落書き

・ちょっとした口癖のようなしぐさ


それこそ、唯一無二の個性であり創作なのではないか。

意味がないこと、価値がないと思われることの中にあるもの。

それに意識を向けていく。



「人間の人間たるゆえんは、つまり動物との違いは、まだ見ぬものを想像し、それをかたちにする力になるのかもしれません」


「表現するということは、わたしたちがこの世界にたしかにいたことを、未来に向けて証拠化する営みでもある」


「人にもし役割があるとするならば、それは他者の記憶の器になることではないか」



本のタイトルは「生きるための表現手引き」とあるが、表現すなわち生きることなのかもしれない。

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