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Sound Mind, Sound Body

敗れてもまた走れ

アシックス創業者 鬼塚喜八郎の情熱「オニツカタイガー」を創った「靴の鬼才」はなぜ世界と戦い続けたか

財部 誠一 著

読了




著者が伝えたかったこととは違うかもしれないが、心に残ったことを残した



1、なぜ「オニヅカ」なのか —— 託された命と誓い


「オニヅカタイガー」は、世界的に知られるスニーカーのブランドだ。

私自身、これまでの人生で気に入った靴のベストスリーを挙げるなら、間違いなくこのオニヅカタイガーのスニーカーが入る。


アシックスの創業者である鬼塚氏が作り上げたブランドだから「オニヅカタイガー」——そう聞いても、多くの人は特に違和感を覚えないかもしれない。

しかし、この名にはあまりにも大きな歴史のドラマが秘められていた。


鬼塚氏は、もともと「坂口」という姓であった。

なぜ坂口から鬼塚へ変わったのか。

その背後には「戦争」があった。


戦時中、鬼塚氏は出征先で世話になった陸軍の先輩から、深く懇意にしていたご夫妻の存在を知らされる。

先輩は出撃する際、「万一のことがあれば、あの夫妻を頼む」と己の家族の未来を託し、そのまま戦場へと散っていった。


戦後、鬼塚氏は先輩の想いを無碍にできず、血縁も直接の恩義もないそのご夫妻の養子となり、「鬼塚」の姓を継ぐ決意をする。

ただ一つ、亡き先輩との約束を果たすために。


自らの姓を捨て、見ず知らずのご夫妻を養うために働き続ける。

そこには「家」「姓」「約束」、そして「戦時下」という過酷な時代背景が生んだ、現代とは異なる強い倫理観と覚悟があったのではないか。


善悪を超えて、当時の時代に確かに流れていた空気を、彼の決断から強く感じ取ることができた。



2、エチオピアのアベベ —— 歴史の地層が織りなす必然


人類の発祥地とされるエチオピアのランナー、アベベ・ビキラ。

彼が裸足でオリンピックの舞台を駆け抜け、金メダルを獲得する。

その姿を、鬼塚氏は目の当たりにすることになる。


これは単なる歴史の偶然だったのだろうか。


一見すると奇跡的な出来事の奥底には、人類の気の遠くなるような歴史が潜んでいる。

人類が誕生したアフリカの大地の力。

産業革命、植民地時代、そしてそれを乗り越えようとする人々。

二度にわたる世界大戦。

資本主義の台頭。

それに伴う国際政治のパワーバランス。


無数の思惑と運命が重なり合った結果として、あのオリンピックの舞台でエチオピアの選手が躍動する歴史的瞬間が立ち現れたのだ。

そこに、敗戦国として立ち上がろうとする日本の鬼塚氏が巡り合い、「裸足のアベベに靴を履かせたい」という熱い情熱をもって一歩を踏み出す。


人類の起源から続く巨大な物語の繋がりの中に、私たちは生きている。

いま、この瞬間に起きている出来事の真の意味を、私たちがその場で理解することは難しい。


けれど、50年後、100年後の未来から振り返ったとき、それらはすべて一本の歴史の糸として解き明かされるのかもしれない。

そんな壮大な視点を与えてくれる出逢いだった。



3、「Sound」という言葉の響き —— 調和としての健全さ


「健全な身体に健全な心が宿る(Anima Sana In Corpore Sano)」

このラテン語の標語との出会いが、後の「ASICS」という社名を生み出すことになる。


この言葉の英訳こそが、"Sound Mind, Sound Body" である。


英語の文法的にはごく自然な訳なのかもしれない。

けれど、「健全な」という概念を「Sound」という単語で表現することに、なぜか深く心を揺さぶられた。


「Sound」という言葉に、日本語の感性である「響き合う」「共振する」「調和する」というイメージが重なり合っていく。

身体と心、人間と社会、そして歴史と命が美しく調和し、共鳴し合っている状態。

それこそが「健全(Sound)」であるという響きを感じることができる。






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