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事実と真実

マネーバイアス

ピーター・カーニック 著


28番目の嘘

問題もお金、解決もお金


本書には、次のような一節がある。


お金自体は決して問題ではありません。また、お金で問題を解決することはできません。私たちは何十年、あるいは何世紀にもわたる経験を経て、お金では問題を解決できないと学んできているはずです。

直感的に伝えている内容は正しいことは分かる。

ただもう少し具体的に考えてみたい。


お金があれば解決できる問題は数多くある。

病院にも行ける。

家も建てられる。

教育も受けられる。

食べるものにも困らない。


だから「お金では問題を解決できない」と言われても、少し極端に聞こえる。

歴史を振り返れば、人類は何度も「もっと豊かになれば幸せになれる」と考えてきた。

そのために、権力と戦争を絶えず行ってきたことは間違いない。

けれど、結局

お金が増えても戦争はなくならない。

環境問題もなくならない。

孤独もなくならない。

家庭の不和もなくならない。

心の不安も消えない。


つまり、お金は手段にはなっても、問題の根には届かない。

では、本当の問題はどこにあるのだろうか。

著者はこう続ける。


真の問題と解決策は、関係性の中にある。

人との関係。

自分との関係。

自然との関係。

社会との関係。


問題は、お金そのものではなく、それらの関係性の中に生まれている。

例えば、「お金が原因で夫婦喧嘩になる」と言うことがある。

しかし、本当に原因はお金なのだろうか。


その奥には、

安心できない。

信頼できない。

大切にされていると感じられない。


そんな関係性の問題が隠れていることが多い。

会社の給料が低いという悩みも同じだ。

本当に足りないのはお金なのか。


仕事との関係。

社会との関係。

自分自身との関係。


そうしたものが映し出されているだけなのかもしれない。

だから、お金は問題ではない。


この章で最も印象に残ったのは、

「お金は関係性を映す鏡である」

という考え方だった。


抽象的であり、理解しようとしてもなかなか整理できない言葉だが、著者に伝えようとしてるニュアンスは伝わってくる。



一万円札は紙であり、数字は数字でしかない。

そこには「安心」も「成功」も印刷されてはいない。


それなのに私たちは、

安心したり、

不足を感じたり、

自由を感じたり、

不安になったりする。


つまり、お金そのものが何かを語っているのではない。

私たち自身が、お金に意味を投影しているのである。


もし、お金を見るたびに不安になるなら、

問題はお金ではない。

未来との関係かもしれない。


もし、お金を失うことが怖いなら、

失いたくないものは信頼なのかもしれない。

承認なのかもしれない。

自由なのかもしれない。


お金は、その人自身の内面を静かに映し出している。


そしてよく考えると、お金とは本来人と人との関係性の中で利用されるものだということ。

つまり、お金は内面を映している鏡であるのは確かだが、どちらかというと、誰か(何か)との関係性を映し出している鏡だと言えそうだ。


なんとなく、ここを深堀りしてちゃんと理解したいと思うのに、思考が前に進まないのとは、関係性の鏡だという真実を直視することの恐れがあるからかもしれない。



そんなことを考えていたとき、一つの言葉が浮かんだ。

「神話は事実ではない。しかし真実である。」


神話は、歴史的事実を伝えるものではない。

世界はなぜ生まれたのか。

人はなぜ生きるのか。

死とは何か。

愛とは何か。

共同体とは何か。

そうした、人間が生きる上で何度も向き合う問いを、物語という形で語り継いできた。


だから神話は事実ではない。

しかし、人間の精神や文化を支える「真実」を語っている。


事実とは、客観的に起きた出来事であり、測ることのできる世界である。

一方、真実とは、その出来事が私たちにとってどのような意味を持つのかという世界であり、人の心や文化、風土を支えているものだ。


事実は「何が起きたか」を語る。

真実は「その出来事は何を意味しているのか」を語る。


そう考えると、お金も神話と少し似ている。

お金は紙であり数字である。

それ自体には意味はない。

しかし私たちは、その紙切れに、安心、不安、成功、失敗、自由、欠乏、愛、努力、…そうした意味を与えている。


この意味が真実だとするなら、真実は自分たちの中にある。

そして、その真実を映す鏡が、お金なのだろう。



神話は、人間の内面を物語という鏡に映し出す。

勇気とは何か。

愛とは何か。

生きるとは何か。

一方、お金は、私たちの日常の中で、自分自身との関係、人との関係、社会との関係を映し出している。



ここで思い出すのが、『星の王子さま』のバラの話である。

王子さまにとって、自分の星のバラは世界でたった一輪だった。

しかし、植物学的には他のバラと何も変わらない。

事実としては、何万本もあるバラの一本である。


それでも王子さまにとっては、かけがえのない存在だった。

なぜなら、その花のために時間を使い、心を注ぎ、関係を育ててきたからだ。

価値は、関係性に宿っていた。


お金も同じなのだ。

誰から受け取り、誰に渡し、どんな思いで使い、どんな価値への応答として循環したのか。

その関係性が、お金に意味を与えている。


私たちは、お金を増やすことで人生を変えようとしてしまう。

しかし、本当に変わるべきものは、お金ではない。


世界との関係。

人との関係。

自分との関係。


この章は「あなたは世界と、どのような関係を結んで生きていますか」と問いかけている章なのだ。

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