さよなら絵梨
藤本タツキ
読了
日本の可能性を感じた1冊。
前作「ルックバック」もすごかったが、さらにすごいもんを見せられた感覚だ。
漫画をよく知る人は、内容はさることながら、絵、コマ割りのすごさを紹介しているが、ぼくはそこまで詳しくないので、どうしても内容にこだわってみてしまう。
ルックバック同様、「才能は止められない」「才能は残酷」というテーマは変わらず、表現すること、表現したものが二次三次的に社会にどう影響されていくのか。
才能だけではなく、それを活かした時に、どう社会に影響を及ぼし、その影響がどう自分に帰ってくるのか。
さらに、自分に帰ってきた影響をどう飲み込むのか。
ここまで描かれている。
ちょうど、仕事でひとつのテーマに向き合っていた。
才能を活かすことで、自分をつぶしてしまう経験がある。 それでも、才能にブレーキをかけずに活かし続けながら、社会に必要とされる存在であり続けるには何が必要か。
そんなテーマだ。
たとえば、「効率を高めることに喜びを感じる」という才能があるとする。
もしかすると、もう少し因数分解すると違う表現ができるかもしれないが。
この効率を高めることを追求していった結果、初期は自分も周りもすごくハッピーな状態が続くが、、。
いつのまにか、効率的じゃない人やモノに対しての苛立ち、許せない感情、自分にストップをかけられない、などなど、特に自分の心と感情に対して、あまりいい反応ができなくなってくる。
それを続けると、いつしか、自分へ強制終了ボタンを押さなければならなくなる。
ここでは「効率」というビジネスの世界でありがちな表現をしてしまったが、芸術やスポーツの世界でもよくありそうだ。
才能を活かそうとすればするほど、現状の社会から離れていく感覚。
そしていつのまにか自分自身の崩壊を招く。
これをどう回避するか。
ただ回避するだけではなく、才能は維持したままどう社会の中で活かしていくか。
多様性が受け入れられていく世の中に変化はしているが、まだまだこの悩みはあるのではないか。
「ど真ん中を生きる」仲間も、それに近い感覚をもっている人は、多いはずだ。
ど真ん中を生きるとは、まさにそういった生き方だからだ。
これに対して、どう答えを出していくか。
リアルな社会の中では、正直厳しい。
実は、日本の漫画の可能性というのは、まさにここになるように思う。
世界が個人の新しい生き方に追い付くまでのタイムラグ。
それを埋め、表現する場としての漫画のすごさ。
ここに世界が注目してくれるのではないか。
そんな希望を感じた一冊だった。
ぜひ読んでみてほしい。
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